Shall I ... _

Mstislav Rostropovich − Bach: Cello Suites 1, 4 & 5
(via Amazon.co.jp)


私にとっては此の演奏が人生初の『無伴奏チェロ組曲』だった。大御所とも在ろう者が剰りに感情に流し過ぎだ、という意見も度々NETからは聞こえて来るが、人生初にして唯一の持ちものだっただけに縛るものを私は知らず、晴れた平日の午后、週末 雨の薄暮、自ら融けゆく此の弦の震えを、幾年も心から慈しんで過ごした。
後年、もっと年若い亜細亜人の演奏を新たに採ってみたが、確かに高名に能う端正なる演奏ではあったが、此方に馴れた私の琴線には淡泊に過ぎ、——そう、文筆のBGMにちょうどだった。

初老のセロ弾きに知己を得ていた時代がある。 私はその頃も全くの素人で耳を傾けるばかりだったが、「鷲掴まれ喉から引き摺り出されるかのように、深い処から慟哭が噴き、鑑賞を断念せざるを得ないほどでなくては五番と言えない」意見には、感銘と共、肉感的に頷けたのを覚えている。演奏に触れる機会を待たず発って来てしまったけれど、きっと私は彼のセロを好きになれたろう、五番に差しかかる辺りで、今も淡く想う。

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