窓に囲まれて育った
窓に囲まれて生きてきた
顔を上げる所には窓があった
その晩私は 荷を纏めていた
港を出ようとしていた
溜め込んだ物は膨大だった
凡そ生きるとは廃棄すること
幾度目の往復か もう数えてはいなかった
顔を上げると その晩も窓があった
規律だけが取り柄の 媚態のひとつも投げかけない お仕着せの
慎ましく列している私の窓を 終いに視た
何を見透かせよう
或る物は明かりを抱き 或る物はレェスを踊らせ 或る物は冷たく閉ざされたきり
その奥で
私が二百も呷ったこと 次は音楽に生まれたいと遺したこと それから
それでも憂えて空調を極限まで下げたこと
嘗てはそこで恋が戯ばれたこと 月に幾度も航空便が交ったこと
落涙に寄り添ったのが猫だけだったこと それもやがては白い彫刻と化したこと……
それでいて どれとも等しく 私の窓は慎ましいのだ

ですから 母上
何も羨むに値しません
何も蔑むに値しません
観るべきものは外にも在れど
見えるものは内にのみ現れて在るのです
あなたの悲痛を わたしの抱擁を
視たのはあなたとわたしだけだ
何を思いますか
寂寥ですか
孤独ですか
仁愛ですか
幸福ですか
Photo by Francis Meslet “La Maison De Poupées”